駅の名札が目に入った。ホームには二人の大人がいた。改札口の前で、向き合っている。
ザッ、ザッ、靴音が別れる方向へ伸びていく。アオイはじっと見つめていた。小さな手が、そっと握られた。
カチッ、カチッ。改札の機械音が鳴った。遠くからアナウンスが流れる。唇がふるりと動いた。小さく、さようなら。
アオイはホームを歩いた。改札の横穴が目に入った。小さな手が、そっと穴の縁に触れた。
ポトン。硬貨が落ちた瞬間、カラン、コロン。風鈴のような音がした。硬貨がキラリと光った。
目を丸く開けて、アオイは見つめた。穴の中から、光がじわっとあふれ出した。
硬貨が、紙の蝶に変わった。掌の上で、そっと羽ばたく。サラサラとしたざわりが指先に伝わる。
蝶はアオイの周りをぐるりと回った。ぴくぴく、翼を震わせて。アオイの口元が、ゆるりと上がった。
蝶はホームの奥へ、飛び去っていった。アオイは小走りで追いかけた。足音が響く。
レールがゆらゆらと揺れた。遠くで、汽車の汽笛が鳴った。アオイは手をぎゅっと握りしめた。
蝶が、止まった。ホームの端で、ひらひらと翼を開いた。アオイは、ゆっくり近づいた。
蝶が、また飛び出した。アオイは大きく息を吸った。一歩、前に踏み出した。
アオイはホームを歩き続けた。駅の出口が見えてきた。光が、たくさん差し込んでいた。
駅名札が、キラリと光った。アオイは目を細めて、見つめた。新しい駅の名前だった。
アオイは深く息を吸った。新しい空気を、胸いっぱいに取り込んだ。手を、ほぐした。
アオイは、新しいホームへ歩き出した。蝶が、頭のうえでひらひらと舞っていた。