春の匂いがする丘の上。おおきなお腹をゆらしながら、お口いっぱいにシロツメクサを集めます。 そのとき、お腹のなかでポコッと小さな蹴りがしました。 ぴたりと立ち止まり、足元の緑を鼻先でそっと撫でます。
あつめたお花と干草をかさねて、もうすぐ会える赤ちゃんのためのベッド作り。 ヒューッと強風が吹き抜け、一番やわらかい草がコロコロコロ……。 「待って!」 あわてて鳴き声をあげ、小走りで追いかけます。
草を追いかけた先には、ぽっかり空いた不思議なくぼみがありました。 しずんだ風だまりの中には、たんぽぽの綿毛が雲みたいに集まっています。 「これ、いいね」 ふかふかの真っ白な綿毛をそーっと口にくわえ、ベッドまで運びます。
お日様のぽかぽかとした光が、できあがったばかりのベッドを照らします。 ふぅっと息をついて座りこむと、お腹がまた大きくポコポコと動きました。 甘いお花の香りが風に乗って運ばれてきます。 いよいよ、その日がやって来たのです。
「メェーーッ!」 静かな丘の風がピタリとやみ、元気な鳴き声が響きわたります。 目の前には、まだ濡れた毛をブルブル震わせる、ちいさな命。 ゆっくりとまばたきをして、その温かな背中をペロリとなめました。
鼻先でツンツンと押して、お花いっぱいのベッドへそっと促します。 赤ちゃんが草の匂いをくんくん嗅いで目を閉じると、お母さんもぐるりと丸くなってぎゅっと寄り添いました。 春のおだやかな風が、二匹の白い毛を揺らしています。